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山形地方裁判所酒田支部 昭和63年(ヨ)20号 判決

申請人

澁谷郁

右訴訟代理人弁護士

佐藤欣哉

右同

縄田政幸

被申請人

医療法人清風会

右代表者理事長

池田康子

右訴訟代理人弁護士

丹羽鑛治

主文

一  申請人が被申請人に対し、雇用契約上の権利を有することを仮に定める。

二  被申請人は申請人に対し、金九万三一五六円及び昭和六三年五月から本案判決確定まで毎月二五日限り金一四万七四二四円宛を仮に支払え。

三  申請人のその余の申請を却下する。

四  申請費用は被申請人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

一 主文一項同旨

二  被申請人は申請人に対し、金九万三一五六円及びこれに対する昭和六三年四月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに同年五月から本案判決確定まで毎月二五日限り金一四万七四二四円宛を仮に支払え。

三  主文四項同旨

二  申請の趣旨に対する答弁

1  申請人の本件仮処分申請を却下する。

2  申請費用は申請人の負担とする。

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  当事者及び本件雇用契約

(一) 被申請人は、肩書地に主たる事務所を置き、同所において「光ケ丘病院」という名称の精神病院を開設している医療法人である。

(二) 他方、申請人は、昭和五九年一二月一日申請人に雇用され(以下この雇用契約を「本件雇用契約」という。)、爾来右光ケ丘病院において看護婦(その資格は正看護婦)として勤務していた労働者であって、当初は第一病棟(男子の精神病急性期患者の治療棟)に、昭和六一年四月一日からは第五病棟(痴呆症の老人患者の病棟)に配属されていたものであり、被申請人の従業員で組織されている「清風会光ケ丘病院労働組合」(昭和六〇年九月結成。以下単に「病院労組」という。)の組合員である。

2  本件懲戒解雇

被申請人は、昭和六三年四月九日、申請人に対し、「解雇通知」と題する書面を交付することによって、申請人を懲戒解雇する旨の意思表示(以下「本件懲戒解雇」という。)をし、以後申請人が雇用契約上の権利を有することを争い、同月一〇日以降の賃金を支払わない。

3  賃金等の月額及びその支給日

(一) 申請人が被申請人から支払を受けていた賃金は、本件懲戒解雇前三か月の平均月額(被申請人において源泉徴収すべき所得税及び社会保険料相当額を含む。)で一四万七四二四円であった。

(二) 被申請人の就業規則(その第四七条を承けて定められた賃金規定)によれば、賃金(基本給と諸手当から成る。)は毎月一日から末日までの分を当月二五日に支払うものとされている。

4  保全の必要性

申請人は、被申請人から支払われる賃金を唯一の収入源とする労働者であって、その賃金収入により自己の食費及び同居している両親等の家族のため光熱費等を拠出していたものであり、本件懲戒解雇により収入を断たれて以降その生活は破綻しているので、本案判決の確定を待っていては回復し難い著しい損害を被るおそれがある。

5  よって、申請人は被申請人に対し、本件雇用契約に基づき、その契約上の権利を有することを仮に定めるとともに、前記賃金等の月額に相当する金員(昭和六三年四月一〇日から同月末日までの分九万三一五六円及び翌五月以降毎月一四万七四二四円宛)の仮払を求める。

二  申請の理由に対する認否及び被申請人の主張

(申請の理由に対する認否)

1 申請の理由1ないし3の各事実はいずれも認める。

2 同4の事実は不知・保全の必要性があるとの主張は争う。なお、申請人の父澁谷昭弥は、田三万二八八〇平方メートル、畑三五三平方メートル、宅地一二三五・五九平方メートルを所有する大規模な農家であり、その生活は苦しくないので、申請人が賃金の仮払を受けなければならない緊急の必要性はない。

(被申請人の主張)

1 就業規則の定め

被申請人の就業規則には、別紙(一)記載のとおりの定めがあり、それによれば、従業員が正当な業務命令に故意に従わず、あるいは、勤務態度が非常に不良であり、その他服務規定に違反したときなどには、解雇を含む懲戒処分を科することができる旨規定されている。

2 懲戒解雇事由の存在

(一) 申請人は、昭和六二年一〇月以降別紙(二)〈1〉ないし〈20〉記載のとおり長期間にわたり多数回の非違行為を行っていたところ、昭和六三年四月一日にはこれにより被申請人から戒告の懲戒処分を受けたにもかかわらず、その後においても全く反省の態度を示さず、更に別紙(二)〈21〉ないし〈23〉記載のような非違行為を行ったばかりでなく、その他〈24〉ないし〈26〉記載のような行為に及んだ。

(二) 申請人の右所為は、上司の業務上の命令に従わず、看護婦としての適切な業務の遂行を怠り、また、上司に対して著しく反抗的、非礼な言動に及んだものであって、勤務態度が非常に不良で、職場の秩序を著しく紊乱し、従業員として不適格であると判断せざるを得ず、就業規則四五条一項、三項、七項、五六条一項、四項、八項、一三項、一四項、二一項に該当する。

三  被申請人の主張に対する認否及び申請人の反論

(被申請人の主張に対する認否)

1 被申請人の主張1の事実は認める。

2 同2の(一)の事実のうち、被申請人が前同日申請人に対し戒告の懲戒処分を科したことは認めるが、その余は否認し(被申請人主張の懲戒解雇理由たる事実はすべて否認する。なお、これに関する具体的主張は別紙(三)記載のとおりである。)、同(二)は争う。

(申請人の反論)

1 解雇権の濫用

被申請人の就業規則によれば、懲戒の種類としては解雇・停職・解職・降職・減給・昇級延期・戒告(その中には、始末書をとり将来を戒めるものと、戒告書を通知するだけのものとがある。)が定められているところ、被申請人は、申請人に対し、右の中で最も軽い戒告書による通知の処分を選択して科したのに、その後短期間内にさしたる事由もないのに突然最も重い懲戒解雇の処分を科したものであって、これは懲戒の手段としての相当性を著しく逸脱しており、本件懲戒解雇は、権利の濫用として無効である。

2 不当労働行為

本件懲戒解雇は、申請人が労働組合に加入していること及びその組合員として活動していることを嫌悪してなされたものであるから、不当労働行為として無効である。

四  申請人の反論に対する認否

1  申請人の反論1の事実のうち、就業規則に定められている懲戒処分の種類が申請人主張のとおりであること及び申請人に対して当初その中でも最も軽い戒告書による通知の処分を科したことは認めるが、その余は否認する。被申請人が当初前記懲戒処分にとどめたのは申請人の反省と改善を期待してのことであり、それにもかかわらず全く反省の態度が見られず、同種行為を反復したため、もはや申請人との雇用を継続するのは相当ではないと判断したものである。

2  同2の事実は否認し、不当労働行為との主張を争う。

第三疎明(略)

理由

第一被保全権利について

一  申請の理由1ないし3の各事実は当事者間に争いがない。

二  また、被申請人の主張1の事実は当事者間に争いがない。

三  続いて、同2(懲戒解雇事由の存否)について判断する。

1  ところで、被申請人は、別紙(二)記載の〈1〉ないし〈20〉の事由も直接本件懲戒解雇の理由たる非違行為である旨主張するが、これらはいずれも申請人に対して戒告の懲戒処分が科せられた昭和六三年四月一日より前に生起したものとして問疑されている事実であり、かつ、(右戒告の際、これら事実を処分の理由たる事実として明示的に掲げたわけではないけれども)被申請人は申請人にこれらの所為があったとして右の戒告をしたことは弁論の全趣旨から明らかであるから、これらを本件懲戒解雇の理由たる非違行為として直接取り上げることは二重処罰に該当することになり許されず、「申請人がごく近い過去に戒告の懲戒処分を受けたのにかかわらず従前と同種の行為を反復している」という意味での情状として考慮されることになるというべきである。

2  そこで、右戒告処分の後に生起したものとして問疑されている別紙(二)〈21〉ないし〈26〉の各事由についてその事実の存否及びこれに対する評価を検討する(以下、別紙(二)記載の各事由については同記載の番号のみをもって表すことがある。)。

(一) 〈21〉の事由について

被申請人が昭和六三年四月一日申請人に対し戒告の懲戒処分を科したことは当事者間に争いがなく、(証拠略)、申請人本人尋問の結果によれば、更に、被申請人の人事労務部長秋葉辰巳は、前同日午後四時前ころ、申請人を会議室に呼び、柴田和子婦長立会のもと、申請人に懲戒処分通知書(戒告)と題する書面を朗読して右処分を告知したが、これに対し、申請人は、直ちには服することなく、懲戒処分の理由となった事実について質すなどしたこと、その後申請人と秋葉部長・柴田婦長の間で約三〇分以上にわたって申請人の従前の執務態度等について応酬があり、申請人は処分を受けることには容易に納得しなかったこと、しかし最終的には申請人も右懲戒処分通知書を受け取って退室したこと、以上の事実が一応認められる。

右の事実によれば、申請人の態度は反抗的と評されてもやむを得ない面があるものの、後記のとおり被申請人が主張する戒告の理由となった事実関係には問題がないわけではなく(〈2〉及び〈11〉のように事実の疎明がないもの、あるいは、〈18〉ないし〈20〉のようにそもそもそれ自体を懲戒の事由とすることはできないものも含まれている上、その他上司との感情的対立が原因となっているのでその責任のすべてを申請人に負わせるのは相当でないものもある。)しかも、疎明によれば、従前申請人の加入している病院労組と被申請人ないしその幹部とは激しく対立していたことが一応認められるのであるから、右の申請人の態度を殊更に取り上げてこれのみを批判するのは妥当ではない。

(二) 〈22〉の事由について

前掲各疎明資料のほか、(証拠略)によれば、申請人は、同日午後五時すぎころ、同僚の看護婦二名とともに足を洗うため病棟内の浴室に行った際、その当時第五病棟における上司であった加藤みよ子副婦長が後から同浴室内に入ってきたのを見て「鍵かけてやれ。泣かせてやっか。」などと言って、浴室のドアのうち一か所に外から鍵をかけたこと(但し、申請人自身が直接鍵をかけたのか否かは証拠上必ずしも詳らかではない。)、しかし、その後間もなく同副婦長はそのドアの鍵を中から開けて浴室外に出て来たことが一応認められる。申請人は、右浴室内で同副婦長を見掛けたことはないし、右のように言ったこともない旨供述し、(証拠略)にも同旨の記載があるが、(証拠略)に照らして採用できない。右の事実によると、申請人の右所為は、嫌がらせのため行ったものと見ざるを得ず、職場の上司に対してかような振る舞いに及んだことは甚だ遺憾なことであるというべきである。

しかしながら、右所為に対する評価においては、疎明によれば、申請人単独の行為ではなく、他にもこれに加担した者がいること、右ドアはそもそも中からも鍵をはずせる仕組みになっていた上、そのほかにもドアがあって中から鍵を開けられる構造になっていたこと、申請人らに同副婦長を監禁するとまでの意図はなく、浴室内にとどまっていた時間もさほどではなかったと一応認められることをも併せ考えるべきである。

(三) 〈23〉の事由について

前掲各疎明資料、殊に(証拠略)によれば、申請人が同年四月六日に川尻潔が診察していた際に多数の患者を診察室内に入れるようにという趣旨のことを言ったことが一応認められるものの、それが申請人の嫌がらせないし害意に基づくとまでの疎明はない。

(四) 〈24〉の事由について

前掲各疎明資料のほか、(証拠略)及び証人後藤和子の証言によれば、申請人は、前記のとおり戒告処分を受けた後、折から出会った後藤和子副婦長に対し、懲戒処分通知書(戒告)を手に持って見せながらこのような書面をもらったという趣旨のことを言ったと一応認められ、これによると、戒告という懲戒処分を受けたのにいささか反省の念に欠けているのではないかと窺われないわけではないが、いずれにせよ些細な振る舞いであり、これが軽率な行動という域を越えていかにも重大な非難に値するかのように取り上げるのは相当ではないべきである。

(五) 〈25〉の事由について

前掲各疎明資料のほか、(証拠略)によれば、申請人は、同月二日、被申請人から禁止されていたにもかかわらず、就業時間内に病棟において勤務中、病院労組の指示によりその活動の一環としてそのスローガンを記載したワッペンを着用していたことが一応認められる。

(六) 〈26〉の事由について

これを疎明するに足りる証拠はない。

3  なお、申請人が戒告処分を受けたことは前判示のとおりであるが、その懲戒処分の根拠として被申請人が主張する諸点(〈1〉ないし〈20〉)について付言するに、その中には、まず〈2〉及び〈11〉のように、そのような事実があったことを疎明するに足りる証拠がないものや、〈18〉ないし〈20〉のようにそれ自体はそもそも申請人の非違行為ではなく、懲戒事由を構成するいわれはないものも含まれている(申請人が職場内で適応できないので規律上問題があるというのであれば、その原因となった申請人自身の行為の存在及びそれが申請人の責に帰せられるものであることを指摘する必要がある。)。また、前掲各疎明資料のほか、(証拠略)によれば、申請人が副婦長に電話をして入浴介助の依頼をしたこと(〈1〉の事由)、婦長に対して体重表を投げ付けるようにして渡したこと(〈3〉の事由)、婦長が記載中の指示箋をものも言わずにひったくるようにして持って行ったこと(〈6〉の事由)、病棟が変わったばかりで慣れていない副婦長に血圧測定を変わってやってもらったこと(〈8〉の事由)、婦長が腰掛けている椅子に足が当たるなど乱暴な行動があったこと(〈10〉の事由)は一応認められるものの、それが婦長・副婦長等の上司に対する殊更な嫌がらせないし害意に基づくとまでの疎明がないものもある。しかし、前掲各疎明資料のほか、(証拠略)によれば、申請人が婦長の作成した勤務表に対して抗議し、反抗的態度をとったこと(〈4〉の事由)、勤務中診察室の診療台の上で伏臥したり、患者のいるホールで男性看護士に腰を踏ませたこと(〈12〉の事由)、婦長が採血等をするように依頼しても従わなかったこと(〈13〉の事由)、医師が回診に来たので聴診器を当てるのを即刻止めるように婦長に指示されたのに直ちにはこれに従わなかったこと(〈14〉の事由)、医師から出た指示についてこれを伝える婦長に対し反抗的な言辞を弄したこと(〈16〉の事由)、婦長の指示に対して反抗的な態度をとったこと(〈17〉の事由。但し、婦長の側の対応にもかなり問題がある。)、患者に対する処置の方法あるいは言動に配慮を欠く点があったもの(〈5〉〈7〉〈9〉〈15〉の事由)も存すると一応認められる。

4  以上によると、申請人は、前記戒告処分を受けたにもかかわらず反省の念が薄く、依然として上司に対する反抗的態度ないし嫌がらせの行動等をとっていたと一応いいうるのであるが、問題はそれが懲戒解雇処分に該当するほど重大なものであったか否かにある。

四  申請人の反論1の事実うち、被申請人の就業規則に定められている懲戒処分がその主張するとおり(別紙(一)の記載参照)であることは当事者間に争いがない。そして、右の就業規則の定めによれば、その第五八条1ないし7項に掲げられている順序に従って重い処分であると解される。

ところで、被申請人の就業規則第五六条には、従業員について同条所定の行為があったときには懲戒処分に処すると定めているだけであるので、この就業規則のもとにおいては懲戒権者がどの処分を選択するかはその裁量に任せられているものと解されるけれども、その裁量権の行使が社会通念に照らして合理性を欠き、いたずらに酷にわたるようなことがあってはならないと解すべきところ、右の各懲戒処分の中でも解雇は、停職以下の処分とは異なり、当該従業員を職場から排除し、その者に対し決定的な経済的不利益を与える最も重い処分であるから、その選択については特に慎重にあるべきであって、情状を十分斟酌して、停職以下の処分では足らず、該従業員を職場から排除しなければ職場の秩序を維持し得ないほどにその非違行為の違法性が顕著であることを要するものというべきである。

よって、検討するに、前判示の諸点に徴すると、確かに、申請人は、種々の問題行動、特に、上司に対する反抗的態度及び患者に対する不適切な対応があって、懲戒処分の一つである戒告に処せられ、その後においても、いささか反省の念に欠けているのではないかと窺われないわけではなく、反抗的態度ないし嫌がらせの行動等をとっていたものであるが、そこには前判示のような事情も存するのであって、前判示の戒告の懲戒処分を受けたのに同種の行為を再び行ったという点を情状として考慮してもなお一概に申請人のみを重く非難するのは妥当ではないのであり、結局このような事情のもとにおいては懲戒解雇に相当するほど重大な非違行為をなしたとまで評価するのは申請人にとって酷に過ぎるものというべきである。

そうすると、本件懲戒解雇は、被申請人の就業規則の懲戒処分の条項の解釈適用を誤ったものというべきであり、無効と解すべきである。

第二保全の必要性について

(証拠略)によれば、申請人の主張4の事実が一応認められる。もっとも被申請人は、申請人の父澁谷昭弥が田三万二八八〇平方メートル、畑三五三平方メートル、宅地一二三五・五九平方メートルを所有している旨主張し、確かに(証拠略)によればそのことが一応認められるけれども、そもそも申請人自身が全面的に実父方にその生計を負っているとの疎明があるとはいい難い上に、実父の所有する農地の多寡と経済的な貧富とが必ずしも直結するものではないことをも併せ鑑みれば、被申請人主張事実をもってしても、保全の必要性を否定することにはならない。

但し、申請人が請求する履行期の到来した賃金請求権に関する遅延損害金請求権については、保全の必要性を認め難い。

第三結論

以上の次第により、本件仮処分申請は、前記履行期が到来した賃金請求権に関する遅延損害金請求の部分は失当であるからこれを棄却し、その余はすべて理由があるから保証を立てさせないでこれを認容することとし、申請費用について民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 齋藤隆)

(一) 就業規則(抄)

第四五条(服務)

従業員は病院の定めた諸規定、諸手続及び上長の指示に従って自己の職務の遂行に努めなければならない。

1 病院の伝統を守り常に品位ある行動をとること。

3 従業員相互の人格を尊重し合い協力しチームワークの向上に努めること。

7 病院の名誉信用を傷つける言動をしてはならない。

第五六条(懲戒)

従業員が次の各項の一に該当する行為のあった場合は懲戒処分にする。

1 正当な業務命令や正当な指示に、故意または恣意をもって従わない時。

4 勤務成績及勤務態度が非常に不良な時。

8 暴力、脅迫、傷害、その他これに類する行為があった時。

13 上長又は同僚に対し、著しく非礼を働いた時。

14 著しく品位を欠く行為や、暴言及び侮辱的言辞を弄し、病院の職員として不適当と認められた時。

21 その他服務規定に違反した時。

第五八条(懲戒の種類)

病院は従業員が懲戒に該当する行為があったときは次のとおり懲戒する。

1 解雇 行政官庁の認定を受け即時解雇する。但し、認定を受けられないときは三〇日前に予告するかまたは三〇日分の平均賃金を支払って解雇する。

2 停職 期間三ケ月以内とする。

3 解職 役職を解任する。但し、本人に顕著な改善の努力もしくは功績があったときは解任以前の役職もしくはそれ以外の役職に復帰させることがある。

4 降職 役職を一階級下げる。但し、本人に顕著な改善の努力もしくは功績があったときは降職以前の役職に復帰させることがある。

5 減給 一回の減給を平均賃金の半日分以内とする。但し、一賃金支払期に二回以上の減給行為に及んでもその減給総額は当月支払給与の総額の一〇パーセント以下とする。

6 昇級延期 一定期間昇級を延期する。

7 戒告 (1) 始末書をとり将来を戒める。

(2) 戒告書を通知する。

但し、病院は前各号の懲戒に際し必要に応じ始末書をとる。

(二) 解雇理由たる事実

〈1〉 申請人は、昭和六二年一〇月、婦長会議に出席していた相馬寿副婦長に電話をかけ、十分な人員が配置されていて手伝いを求める必要がないのに殊更嫌がらせのため、乱暴な言葉遣いで「早く来て入浴介助をしなさい。この忙しいのに。」と言ってくってかかった。

〈2〉 申請人は、同年一一月五日、みぞれの降っている中、患者某が言うことを聞かないという理由で、同人を中庭に出して内から鍵をかけ、入れないようにした。

〈3〉 申請人は、同月中旬ころ、第五病棟看護婦詰所において、柴田和子婦長に対し、嫌がらせのため体重表を投げ付けた。

〈4〉 申請人は、同月二七日、柴田婦長が翌月分の勤務表を作って出したのに対し、「こんな勤務表に従ってなんてやれない。自分だけ五回半も夜勤があるのはひどい。うちの両親も怒っていた。」と言い、同婦長の説明に対しても納得せず、「今すぐ作り直せ。」と怒鳴り、合理的理由もなくヒステリックに文句をつけ、反抗的態度を示した。

〈5〉 申請人は、同年一二月一〇日、朝の洗面の際、行動がのろい患者に対し、「ちゃっちゃっど歩げ、おめだばほんとにしょうがね。」と怒り、感情的になって乱暴な言葉を吐いた。

〈6〉 申請人は、同月、柴田婦長が病棟日誌に移記していた指示箋を、ものも言わずにひったくって持って行った。

〈7〉 申請人は、同月一七日、他の看護婦が血圧測定をしようとした際、手足をばたつかせて処置を妨げる患者に対し、無礼にも両足で体を押さえ、これをたしなめた後藤和子副婦長に対し、「血圧を測るときなんか馬乗りになって測るんだ。」などと、それが当然であるかのように言った。

〈8〉 申請人は、前同日、第五病棟に配置替えになったばかりで慣れていない後藤副婦長に対し、代わってもらう必要がないのに意地悪をする意図で、腕が曲がって計りにくい患者の血圧測定を依頼して「あんたやれ。」と命令口調で言い、血圧計を音をたてて机の上に置き、その後看護婦詰所の中から同副婦長の測定の模様を監視していた。

〈9〉 申請人は、同月一八日、他の看護婦が患者に対し導尿処置をした際、無礼にも立ったまま足で患者の体を押さえた。

〈10〉 申請人は、同月一〇日、嫌がらせのため柴田婦長が座っている椅子を蹴り、その看護婦帽を肘で払ったりしたが、このような行為は、前後六、七回にも及んでいる。

〈11〉 申請人は、勤務表に、婦長・副婦長が土・日休みと記載されていたのを、紙を貼って日勤と書き直すなど悪質ないたずら書きをした。

〈12〉 申請人は、昭和六三年三月一〇日、診察室の診察台の上に伏臥し、更に、患者のいるホールで伏臥して男性看護士に腰を踏ませるなどしたものであって、これは乱れた勤務態度の表れである。

〈13〉 申請人は、同年一月一〇日、採血当番であったのに、柴田婦長の採血の指示を無視し、返事もしないで別の部屋へ立ち去った。

〈14〉 申請人は、同年二月、川尻徹医師が回診した際、聴診器を当てて患者を診ていたが、柴田婦長にこれを止めるように再三命じられても聞き入れず、同婦長が聴診器を申請人の耳から外したところ、怒って部屋から出て行った。

〈15〉 申請人は、同月一六日、患者に対し、「おめだば衣類をため込んで、着れと言っても着ねし、風呂から上がっても着替えしねし、重ね着はするし、みなこっちで預かる。おめが死んだらやる。」などと暴言を言った。

〈16〉 申請人は、同年三月二八日、第五病棟の看護婦詰所において、医師の処置指示を伝える柴田婦長に対し、反抗的に「そんなもの効かない。」と言った。

〈17〉 申請人は、同月二九日、柴田婦長の注射をするようにとの指示に従わず、因縁をつけて反抗し、意味不明の挙動により上司を困惑させ、同婦長に怪我をさせられたと大げさな芝居をしたかと思うと、診察を受けるようにとの勧めに従わず、他方では、医師のもとへ行って同婦長の悪口を泣きながら訴えるなど異常な行動をした。

〈18〉 申請人については、病院内において悪評判が知れ渡っていて、被申請人が申請人を他の病棟に配置替えしようとしても、事前の相談の段階で病棟の秩序が乱れるとして婦長に引受を拒否されてしまう。

〈19〉 勤務表を組むころになると、婦長に対し、同じ組合員である同僚でさえ、申請人と組ませないでくれと頼みに来ることがある。

〈20〉 おとなしい患者でさえ、同月二九日、柴田婦長に対し、申請人のことについて「親切でない看護婦がいて嫌だ。」と訴えて来たことがある。

〈21〉 申請人は、同年四月一日、秋葉辰巳人事労務部長から戒告書を交付された際、同部長と柴田婦長にくってかかり、反省の態度が見られなかった。(解雇通知書に三月二九日と記載してあるのは誤記である。)

〈22〉 申請人は、同年四月一日、加藤みよ子副婦長が病棟の浴室にいることを知りながら「鍵かけてやれ。泣かせてやっか。」と言って、外から鍵をかけて、嫌がらせをした。(解雇通知書に三月二九日と記載してあるのは誤記である。)

〈23〉 申請人は、同年四月六日、柴田婦長が川尻医師に患者三名の診察を頼んだ際、組合員が一度に多数の患者を診察室内に連れ込んだところ、「もっといっぱい連れて行って見らせれ。」と言って、医師を困らせるように仕掛けた。(解雇通知書に四月七日と記載してあるのは誤記である。)

〈24〉 申請人は、同月一日、前記戒告書を受け取った後、後藤副婦長に対し、これをひらひらさせながら「あーら後藤さん」と言うなどの振る舞いに及び、反省の態度を示さなかった。

〈25〉 申請人は、同月二日ころ、病棟内で勤務時間中、事前に禁止されていたにもかかわらず、組合のスローガンを記載したワッペンを着用した。

〈26〉 申請人は、同僚看護婦に対し「婦長は私の顔も見たくないと言っているそうだ。ごみでもあるまいし。」などと事実と相違することを言いふらしている。

(三) 解雇理由に対する主張

(以下、〈1〉ないし〈26〉の番号は、別紙(二)解雇理由たる事実に記載の各事実に付せられた番号に対応するものである。)

〈1〉 申請人が昭和六二年一〇月相馬寿副婦長に電話をかけて入浴介助を求めたことはあるが、それは患者の入浴介助に当たり人手が足りないので危険防止のため応援を求めたのであり、また、同副婦長が会議に出席中であることは知らなかった。

〈2〉 申請人は、同年一一月五日午前九時五分には病棟を出て帰宅しており、患者が中庭に出た時は病院内にはいなかった。

〈3〉 そのようなことはしていない。

〈4〉 申請人は、勤務表の是正を求めたことがあるが、それは一二月一六日から一〇日間連続の勤務であって、しかもその中に二回の夜勤が入っているので、肉体的に厳しすぎるという理由に基づくものであり、被申請人主張のようなことは言っていない。

〈5〉 そのようなことはしていない。

〈6〉 右に同じ。

〈7〉 申請人は、あばれる患者をやむを得ず取り押さえた同僚看護婦に対し被申請人が注意書を交付した件につき病棟会議において問題提起をしたにすぎない。

〈8〉 申請人が同月一七日後藤副婦長に患者の血圧測定を頼んだことはあるが、それは、若い看護婦を嫌がる患者につき年配の副婦長に測定を依頼したものである。

〈9〉 そのようなことはしていない。

〈10〉 右に同じ。

〈11〉 右に同じ。

〈12〉 右に同じ。

〈13〉 昭和六三年一月八日柴田婦長から採血の指示があり、申請人がそれをしなかったことはあるが、柴田婦長は、他に手の空いている看護婦がいるのに、食事介助で手が離せない申請人に対し嫌がらせのため採血を指示し、他の看護婦の申出を拒絶してまで申請人にさせようとしたものである。

〈14〉 同年二月申請人が川尻徹医師の回診の際、患者に聴診器を当てていたことはあるが、それは、患者の血圧を測定するために聴診器を用いていたのであり、測り終えるまで待ってほしいと言ったのに、柴田婦長は、突然患者のふとんをはねのけて、測定を止めさせようとしたものである。

〈15〉 申請人は「おめが死んだらやる。」などとは言っていない。但し、洗濯を嫌がり、衣類をあちこちに隠す傾向のある患者に対し、老人看護でいう悪役としての説得を試みたことはある。

〈16〉 そのようなことは言っていない。

〈17〉 申請人は、同年三月二九日、柴田婦長の注射及び導尿の指示について尋ねたところ、同婦長は、指示が聞けないなら理事長のところへ行こうと言って、申請人の手を何度も強く引っ張り、転倒した申請人の髪の毛を引っ張った。そのため、申請人は、左手指がしびれ、左肩関節と頭に痛みを感じたので、導尿終了後医師の診察を受けたものである。

〈18〉 このようなことを解雇事由として主張するのは、被申請人の申請人に対する嫌悪の表れである。

〈19〉 申請人の同僚は、柴田婦長の組む勤務表では一か月間同一人が夜勤の相手となるため、飽きるから同じ人と組ませないでほしいと言ったのである。

〈20〉 具体的に申請人のいかなる行為が問題なのか明らかでないので、解雇理由とはなり得ない。

〈21〉 申請人がくってかかったということはない。

〈22〉 加藤みよ子副婦長が病棟の浴室内にいた際鍵をかけたのは申請人ではない。また、申請人らはその当時浴室内に人がいることは知らなかった。

〈23〉 申請人は、そのようなことは行っていないし、そもそも当日午後三時三〇分から四時までの間にはまだ病棟勤務に就いていなかった。

〈24〉 申請人は、後藤副婦長に対し、同人が申請人の人格を侮辱するようなことを言ったため、その理由を尋ねようとして、「あら後藤さん」と声を掛けたものである。

〈25〉 申請人は、当日ワッペンを着用していなかった。

〈26〉 申請人は、そのようなことは言っていない。

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